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2017年12月29日~2018年1月27日

layer


年末に風邪をひき、29日の夜に発熱、頭痛にうなされ新年を待たずにこのままテントの中で逝ってしまうんじゃないかと弱気になっていた。なんとか朝を迎え、なんとかパッキングを終え、なんとか走り出せた。サドルに跨ったらあとはペダルを漕ぐだけ、体にさほど負担はかからない。

camp

数日休もうと思って辿り着いた雪色をしたモアブの町で、ガソリンスタンドのスタッフに裏でテント泊する許可を求めた。返事はNo。アウトドアのメッカらしく宿泊施設がたくさんあるこの町ではこの手の方法は通じないようだ。その代わりに3mile先にアメリカで一番安いといわれるホステルがあると教えてくれた。北米でのドミ泊など端から諦めていた僕は、それまで料金を訊ねることさえしてこなかったのだけれど、”行くだけ行って、聞くだけ聞いてみるか” と、期待を持たないようにして行って聞いてみて、びっくり仰天。オフシーズン料金で通常の半額の1泊6ドルでベッドをもらえた。北米最初で最後であろうドミトリーにこの体調が悪いときにありつけるなんて。こうしてめでたく安静に滞在できる環境を得ることができ、年越しはユタ州のモアブで過ごすことにした。

案内された6人部屋に入ると、中に先客がひとり。僕と同じくらい量のある荷物に先ず目が行く。握手を交わしてからシーツをベッドにかける。シーズンオフのドミは静かで快適。一人になれるし、荷物を置けるスペースも十分。誰かいればお互いにその気があれば濃い話もできる。話をするには1対1が一番。友人同士ではないので、距離を保ちながらお互いに気が向いたときだけ話をすれば良い。先客のジャックさんはミシガン州出身の65歳。もうかれこれ数ヶ月住み着いているそうで、入居予定の公営住宅の入居日をここで待っているという。6人部屋は僕らと僕らの荷物だけですでにいい感じに満たされていた。自己紹介もそこそこにこの日はベッドに横になった。

翌日昼前に目覚めると、咳が出るほかは体調は大幅に回復していた。何も気にせず眠れて、なんといってもテントを畳まなくてよいのが有難い。昨夕は認識できなかったけれど、ジャックさんのベッドの横にはゴルフセットが壁に寄り掛けてあってベッド下には各々5kg以上はある丸い石が2つ置いてある。

「侵食された丸石は手に優しい。タダだからいつでも簡単に捨てられるしな。」少し上流のコロラド川で拾ってきたというこの石でジャックさんは毎日ベランダでダンベル体操をして鍛えている。アメリカは、一体誰に医療にアクセスできるのかと思ってしまうほど医療費が高いため、医療機関に世話にならないように健康でいることはとても大事なこと。健康に良いというオメガ3という脂肪酸を魚缶で摂取し、18時以降は何も食べないように長く心掛けてきたらしい。ジャックさんはずいぶん前に奥さんと別れたらしく、子どももいるようだけど疎遠でずいぶん前に会ったっきりだそうだ。

「明日、アーチーズ国立公園にでもドライブにいくか?」 ジャックさんが夕方そう持ちかけてきた。引きこもりたかったのと、ここを出たら自分で自転車で行こうと思っていた場所だったのでそう伝え断った。なんだかジャックさんはえらく淋しそうだ。“本当に断って良かったのか、そうそうないんじゃないのかこんな機会は…” 耳元でキン消しサイズのミート君のような少年が自分の決断の是非を徐々に問い始め、数時間後ついにそれを覆してしまった。「キャニオンランズ国立公園はどうですか?少し距離長くなりますけど、ガス代出すんで。」 短い会議の結果、朝日を見に行くことになった。つまり、初日の出だ。引きこもる予定だった元旦の予定は予想外な展開でわくわくプランに塗り替えられた。

「しかしスマートフォンってやつぁ本当スマートだよなぁ」

無意識に口にしてしまったことに照れた様子で、ジャックさんはベッドで横になって日の出の時間をスマートフォンで調べている。朝6時に発つことになり、5時30分にアラームをセットして、あとはスマートフォンが設定どおりにスマートに起こしてくれることを信じて消灯。年が変わった朝、湯を沸かして作ったコーヒーを互いにサーモボトルに入れ、ジャックさんの車に乗り込んだのが6時ジャスト。非常にスマートな展開だ。

真っ暗で何も見えなかったけれど、町を出るとすぐコロラド川を渡った。ジャックさんはあれこれキャニオンランズの峡谷が形成された経緯を僕に語りかけてくれている。話を100分の1に小さくして簡単に要約するとキャニオンランズはコロラド川とグリーン川の浸食によってコロラド高原に形成された2つの峡谷が眺められる場所ということでいいと思う。地質学者であるジャックさんはこの分野のスペシャリストだ。グランドキャニオンでガイドをしていたこともあるらしく、「岩壁に描かれているのは地球の歴史だ。そのストーリーを感じながらグランドキャニオンを歩きなさい。」と口を酸っぱくして言われた。早朝だし元旦だし、入口ゲートに係員はいなかった。ジャックさんが持っているシニアパスを見せる必要さえもなく国立公園に入る。ここもアーチーズもジャックさんはもう何度も来ているので速い速い。

メサ・アーチという場所につく頃にはもうライトがいらないくらい明るくなっていた。眺望ポイントまで少し歩くとすでに15人ほどの人が来ており、水による浸食で形成されたアーチ状の岩の周りに集まっている。このアーチの内側から見る日の出がどうもオツらしい。7時半すぎにようやく日が上り、カァーと明るくなり光線がアーチの中に一気に入ってきてアーチの内側は燃えるような色になった。

first sunrise

初日の出なんて見たのはいつぶりだろうか。少なくとも旅を始めてから迎えた9度目の元旦にして初めてのこと。ジャックさんのおかげで感慨深いシーンとともにすばらしい新年のスタートが切れた。横で遠くを見つめているジャックさんにそうお礼を伝え、「前にいつ初日の出を見たのか思い出せないんですよ」と、色を変えていく大地を見ながら呟く。少し間を挟んで、かすれたような声が返ってきた。

「わたしも思い出せんよ」
「太古のむかしのことだ」


光線を浴びながら合掌。自分が信仰の対象にできるのは自然だけだなと改めて思った。お天道様は今年も僕の行く道を照らし見守ってくださるだろう。

view

canyonlands

green river

white trail

snow deers

他のいくつかの眺望ポイントに寄り、11時前には国立公園を後にした。「まだまだ見所はこれからこれから」とジャックさんが僕に見せたくてたまらんとばかりにうれしそうに車を走らせてくれた先はたくさんの恐竜の足跡が見られるという場所。

dinosaur model
※ちなみにここじゃない

およそ45億年前に誕生した地球の上に、恐竜が生きていたのはおよそ2億3500万年前~6500万年前の間の1億7000万年間と推定されている。鳥類は恐竜の子孫と考えられているそうで、鳥以外の全ての恐竜は隕石の落下で絶滅してしまった。この隕石落下による絶滅説は極めて有力な説らしい。人類の祖先が東アフリカに出現したのはわずか数百万年前のことだ。恐竜がいかに長く地球上に存在していたかがわかるし、地球の歴史の途方もない長さも漠然と頭に入る。足跡はかつて沼地だったところにつけられたもので、やがてそこに土砂が堆積、その後土地が隆起した拍子に昔の地層が押し上げられて地表にでてきたものだそうだ。全体の半分も理解できなかったけど、車内でジャックさんの話を聞いているだけでとても面白かった。

human history

幹線をおりると雪道になり、もう少し走るとやがて到着。他には誰もいない。車を下りてジャックさんのあとについて雪道を歩いていく。

「…」
「バカな…なんてこった」

雪が化石のある地表を覆っていた。浅い雪ではあるけれど、囲いの中に入って雪を取り除く行為は許されない。

「すまん…雪のことを考えてなかった」

期待していたわけではなかったので、若干申し訳ないほど、僕はショックなど受けていなかった。どうせなら見たかったけれど、足跡が見れないことを悔やむ気持ちよりも、ジャックさんの意気消沈した姿に、そんなにも本気になってくれている姿に、ここに来られてよかったなぁとだけ思っていた。

fossil field

それに、このあと注意深く見て周ると、足跡がひとつ、その姿を地表に出してくれていた。でもジャックさんの表情は硬いままだった。僕に見せたかったのはもっと大きくてもっとスマートな足跡だったみたいだ。

footprint

e panel

町への帰り道、最後にコットンウッドとヤナギの木々が並ぶ川岸に止まり、朝はまだ暗くて見れなかったコロラド川を初めて拝んだ。キャニオンランズの眺望ポイントからはグリーン川は見れたけど峡谷が深くてコロラド川は見ることができなかった。泥をおびた赤い川は両脇の岩壁を映して黄金色に輝いている。これまでどおり、ジャックさんが説明してくれる。「土地の隆起と川による侵食が同時に進んで、昔は同じ高さで流れていた川は今では岩を削り谷を造り、自らが作った峡谷を見上げながら今も大地を削り続けているんじゃよ」

colorado river

走っていれば地球の大きさは日々感じられる。季節の移り変わりで地球が公転していること、日や月と星の動きで地球が自転していることを感じることもできる。でも大地の成り立ち、地球の歴史について深く考えたことなんて今までなかったんじゃないかと思う。

大満足の元旦ドライブを終え、宿のキッチンでサンドイッチを作って食べた。普段と何ら変わらないものなのに、なんだかそのサンドイッチが地層のように見えてしかたなかった。ベッドに横になると僕はすぐにうとうとし始めた。自分の咳で目覚め、ふと隣のベッドに目を遣ったときベッド下の2つの丸石がなくなっているのに気付いた。

J's


それから約3週間後、僕は数百キロ下流にあるグランドキャニオンの南壁に引かれたトレイルを歩いていた。もちろん約1500m下を流れるコロラド川と再び対面するためだ。

trail

最大幅およそ90mのコロラド川はおよそ600万年の時間をかけてパンをスライスするようにコロラド高原を垂直に削ってきた。また、それに付随して岩壁の割れ目に入り込んだ雨水や雪解け水は、寒い夜に凍ると膨張し岩を砕く。こうした侵食の繰り返しは、急速に、といってもほぼ人類史に相当するような時間を経て、長さ446km、平均幅16kmにもおよぶV字型の大峡谷を造り出してしまった。

g canyon view

C river

グランドキャニオンに露出している地層は18億4000万年前~2億7000万年前のものといわれている。岩盤部は傾いているけど、年代順にきれいに層になって堆積している。パークレンジャー曰く、上層にあった恐竜時代の地層は侵食ですべて洗い流されてしまったため残っていないのだそうだ。ちなみに、アリゾナ州北部にあるグランドキャニオンはグランドステアケースと呼ばれる地層が階段状になっている地形の最下部に位置している。その最上部に位置するユタ州南部のブライスキャニオンでは、9700万年前~恐竜時代よりも新しい5000万年前に堆積した地層が見られる。こちらの場合、古い地層は今も地中下に沈んでいるという理解でいいんだと思う。

layer chart

pedaling in the grand staircase nm

bryce

staircase chart


峡谷下部まで下がると最上部の森林帯とは全く違った植生になる。そこはサボテンが群生する半砂漠帯の大地だ。ようやく川岸に立った僕の前を流れる水は緑色をしている。水中の土砂は、大峡谷手前に建設されたダムが造り出したパウエル湖に堆積するからだそうだ。コロラド川の水はそこで垢を落としたあと、再び流れ始め、大峡谷へと入っていく。

zigzag

cactus

colorado river at the bottom of G canyon

glen canyon dam

仮にここで川底にある丸石をひとつ取り出したならば、それはひょっとしたら18億年もの前に形成された最下部の岩盤が侵食されたものである可能性もなきにしもあらずなわけだ。ちなみに国立公園内の植物、石、砂などの持ち出しは一切禁止されている。緑色した流れを前に、このとき僕は良からぬことを考え、悪い顔になっていたかもしれない。

hike up

川岸の岩に座り、地層サンドを食べてエネルギーを補給する。派手に下ってしまったからには派手に上らなければいけない。残念ながら楽な道だけではないのは世の常だ。下りとは違うルートをとり、めっきり落ちたペースで倍の時間を費やして一歩一歩上がって行く。聳え立つ’’岩壁に描かれたストーリー’’を見上げながら、2つの丸い石を使ってダンベル体操をしている人の顔が終始頭に浮かんで離れなかった。その人は僕に素晴らしい年の始まりと恐竜への関心、地球の歴史への関心を与えてくれた人であり、その人が手に握っているその丸石はコロラド川が地球史の末端の末端の末端に描いた短い短いストーリーそのものだった。

grand canyon view




新年最初の写真でがっつり目をつぶってしまいましたが、その分ジャックさんがスマートな表情をしているのでOKです。

with Jack-san


@Beaumont/California




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hiromu jimbo

Author:hiromu jimbo
I'm in a challenge to cycle around the world
since May 2009,started from Istanbul,Turkey.
Motivation for this journey just comes from big curiosity about the world.I'd like to see and feel the ordinary life of the people living in defferent cultures.

2009年5月末イスタンブールより
自転車世界一周挑戦中です。
世界で起きていることへの大きな好奇心がペダルを回しています。その土地で生きる人の日常生活を見ていけたらと思います。

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*special thanks to sekiji-san

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68,781km (May09-May14)
58,112km (July2014- )

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